16話 実戦演習。②

ところで。

「あの……ご主人様」
「何だ?」

口いっぱいにご飯と生姜焼きを頬張っている東谷を見ながら、雪乃は何処か面倒臭そうな表情を浮かべながら、先程から気になっていた疑問をぶつけようとした。

「さっき、大変になるみたいなことを言っていたような気がしたんですけれど……それってどういう意味合いなんでしょうか。私にも関係あるんですか?」
「ない訳ないだろう。うちはチームで動いている。ワンチームだ」

ラグビーか何かで聞いたことがあるけれど。
流行っていたけれど、何となく使い道がイマイチピンと来ないんだよなあ……。

「そのワンチームがどうかしたんですか。もしかして……仕事って昨日の勇者に関連していることなんですか?」
「それ以外に何がある。我々は悪の組織だぞ」

悪の組織とは言いますけれど。
それってどういう意味なんだろうなあ。
いや、それはあんまり言わない方が良いだろうな。
言ったところで何かが改善されるとも思えないし。

「……勇者って、実在するんですね」
「何だ、お前は? 昨日見た映像はCGか何かと言いたいのか。だとしたら、ナンセンスだな。そんな価値観で生きていけるほど、この世界は甘くないぞ」
「別にそこまで言わなくても良いのに……。でも、やっぱり信じられないんですよ」
「何がだ?」

見ると、東谷はもうご飯を食べ終えていた。律儀に手を合わせてご馳走様でしたと言っているのを見ると、意外と幼少期はちゃんとした家庭で過ごしていたのかもしれない。……だとしたら、どこで歯車が狂ってしまったのかという疑問は残ってしまう訳だが。

「勇者という存在。悪の組織という存在。ダンジョンという存在。……異世界というのが身近に感じられるようになったからこそ、それが正しいかどうかなんてさっぱり見えてこないし。けれど、それをそのまま受け入れていった方が、案外楽に過ごせるのかもしれないし……」
「……お前、生きづらい性格しているな? 何というか、真面目過ぎるというか……。まあ、真面目なのはこのご時世悪いことではないが、真面目過ぎると精神を病む。そうして人は簡単に狂っていき、崩壊していき、ひどい場合は自ら死を選ぶ。……それが正しいか正しくないかなんて、もうその頃には分からなくなっているものさ」

何だろう。
何だかその言葉には少しだけ重みがあったような気がしたけれど――もしかして経験談?

「さあ、無駄話はここまでだ。さっさと行かないと色々と面倒なことになる。……あと五分で食い終われ。でないと電撃の処刑を喰らわせる」

そんな無茶な――と思った雪乃だったが、それ以上何もすることはなく、ただ黙々と食事を食べ進めていくしか今の彼女には残されていなかった。

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